まださなぎ(旧)

誰かさんの蝋の翼。気負わず気楽に書いてくよ。

“楽”書き1-2016/11/07

 続き未定、計画不定、見切り発車の三本セット。

 

 絵描きさんが「らくがき」って風に絵をあげてるじゃない?

僕も真似して、文字数やストーリーを考慮せず書き残すことにしたよ。 

 

 また、実験的意味合いも兼ねて「Writer」ってテーマのCSSを適用させてます。

特定のPCブラウザで変更が行われてるはずなので、変な表示になってても許してね。

 

 

 

 

   “楽”書き1

 

 

 フィリアが目を覚ました時、商隊は夜の休息を迎えていた。
 見張り番が遠くを見つめる横で、他のものはわいやわいやと焚き火を囲む。酒をこぼすように酌み交わし、またあるものは弦を鳴らし楽を語る。旅路の中ではあまり見受けられない様子が、そこには広がっていた。

「……眠ってる人のことも考えなさいよ、ったく」

「なーに、大丈夫さ。こんな時にゆうゆうと眠れるのは、酔いつぶれた下戸か疲れた貴族様と相場が決まってる」

「なにが大丈夫なのかさっぱりわからないわ、護衛隊長どの」

 フィリアは上体を起こすと、天幕の外から聞こえたしわがれ声へと目を向けた。
 立っていたのは体のあちこちに精霊紋を刻みつけた、筋骨隆々なる男性。商隊の護衛隊長である彼もまた、酒の匂いをたっぷりとまとわせていた。
 たしか少し前の夜あたりは、「夜に騒ぐなんぞド素人のすることだ」と言っていたように、フィリアは記憶していたのだが。
 彼が手にする大きなジョッキは、まったく反対の事実を物語っていた。

「元気なお目覚めで安心したよ、ねぼすけ嬢ちゃん」

「夜は眠るものでしょう? ねぼすけって言われる筋合いはないと思うんだけど」

「昼間っから眠る奴は十分ねぼすけさ。――礼と謝罪を言わせてくれ、『世間知らずの貴族様』。あんたのおかげで、俺達の命は救われた」

 その言葉を聞いたフィリアは、顔だけをぷいとそむけた。

「ふん、『貴族は特別扱いしないもの』よ。当然のことをしただけで、礼を言われる筋合いはないわ」

 といっても、横から覗くその頬は赤く、照れ隠しであることは明白。それがフィリアのいつもの態度だったし、今もそうであった。

「くくく、そうかい。なら、せめてうちの料理上手が作った飯だけは食ってってくれよ。お前さんのお友達が食いまくっても、まだまだ残ってるんだ」

「……まあ、それぐらいならいただくわ。ちょうどお腹もすいてたの」

 心底愉快そうに護衛隊長が背を向けた後、フィリアも次いで天幕を出る。
 ちょうどその時、楽師は奏でていた曲を切り替えて。英雄譚にありがちな勇壮な出だしから、仰々しい語り口を始めようとしていた。 
「時はヴィンデルの風すさぶりて、恐ろしき魔獣はびこる時代。人々が死に怯えるなかで、その炎は勇気を灯す。古き時代の伝説は、今の世に舞い戻り、スタールビーは再び光る……」

「あ、やっぱりもうひと寝入りするわ」

「――まあそういわず。食ってけよ、な?」

 それを聞いたフィリアの動きは早かった。

 だが、それよりも護衛隊長の腕の動きが早かった。
 逃げられない事実に、フィリアはまたぷいと顔をそむける。照れ屋な彼女の抗議はなんら届くこともなく。楽師は『既視感のある少女』の勇姿を語り始めだしていた。