創作者さんへの「無料が正義な時代のマネタイズ」第一回
挨拶代わりに、ざっくりと。
みんな、お金が欲しいでしょ!
もうちょい正確に言えば、「自分好みの作品を作って、生活できたらサイコー」でしょう?
僕としては、恐らく誰しもそうなんじゃないかと思ってる。
ただ、今の時代は「無料が正義の時代」……と、とある人は言っていた。
僕もそうだと思うし、状況は変わり続けている。
そんな時代を生きるなら、少しでもマーケティング的な考えを持っておくと役立つ。
というわけで、貴方のために情報を用意しました。
全部で三回予定の、今回が一回目。
基本的には、
「価格の心理学 なぜ「カフェ」のコーヒーは高いと思わないのか?」
この本を元にして話していきます。
良い本だから、興味があれば読んでみてね。
(追記:2016/10/05)
第二回書けた。分量多めな理論編。
1:なぜ「タダ」は強いのか
0円と1円とでは、天と地ほどに違いがある。
タダは何よりも強い。
冗談に聞こえるけど、これは本当のこと。
例えばポケットティッシュだ。
あれはタダ=無料で配られてるから気軽にもらえるけど、
もし「一つにつき一円で買える」とすると、貴方は買うだろうか?
おそらく無料の時と比べると、大きなためらいを心に感じることだろう。
なぜか。
お金を支払うことには、「肉体的苦痛」にも似た苦しみを感じるからだ。
しかも人間は、「支払う痛みの方を大きく感じる」癖も持っている。
たかが一円、されど一円。
一円であっても「これは支払っても良いものか?」という逡巡が生まれるんだよ。
この 「逡巡が生まれる」観点から見ると、
実はこれ、百円払うのとも千円払うのとも変わらない。
(とも、言えなくもない)
そこで、タダ=無料だ。
無料の商品の場合、支払う痛みが発生しない。
よって、「支払っても良いだろうか?」という逡巡が生まれないわけだ。
だからこそ、タダってのは強いのさ。
……ともすれば、有料版を駆逐してしまう程度には。
実際今こうして僕の文章を読んでるのも、「タダだから」に他ならないでしょ?
「読んだなら一円支払って」 って言っても、貴方は払わないでしょう?
(きっと僕も払わないだろう)
この『タダ』って部分は、良くも悪くも強力に作用する。
公開作品の認知度をあげることにせよ、お金儲け計画を邪魔するにせよ、ね。
とりあえず「タダ(0円)ほど強力な値段はない」ということ。
ここは大事なことなので覚えておいて欲しい。
2:君の作品を有料にするとなんか炎上しちゃう理由
非実在創作者マルクくんは、自作の漫画で金儲けを企んでいた。
「ボクの作品は投稿サイトで日間ランク一位、月間ランク十七位を取ったんだ! 思い切って有料化してみて、クリエイターとしてステップアップだ!」
マルクくんの計画は単純であった。
もし有料化して「95%の人がいなくなる」としても、「5%の人は残る」かもしれない。
何より自らの作品を支持している人なのだから、有料化してもついてきてくれる可能性はあるはずだ。
マルクくんはそう信じて、有料化の方策を導入した。
マルクくんの考えたことは、一面的には正しい。
「一部の顧客相手に絞る商法」も「支持者は支払ってくれやすい」ことも、間違ってはいないことだ。
しかし数日後、マルクくんの作品コメント欄は炎上していた。
一体どの辺りが、読者の癇に障ったというのだろう?
このエピソードは適当にでっちあげたものなので、フレーバーテキスト程度に考えてね。
知っての通り有料化した全ての作品が燃えてるわけじゃないが、
「無料から有料に転換して不満が噴出した場面」は割りと見たことあるんじゃないかい?
元々値上げは嫌われるもの。
特に、理由がない(利益釣り上げ目的の)値上げは蛇蝎のごとく嫌われる。
この場合は、それに加えてもうひとつ理由が加わるの。
理由は先ほど言ったことだ。
有料に転換するのは、まさしく「タダ=0円から値上げする」ということになる。
無料公開していた作品は、いうなれば「作品を無料提供していた」わけでしょう?
それを無料でなくするのは、「読者から作品を取り上げる」形になってしまう。
つまり(無料でなくなることで)先に話した「支払いの痛み」が加わるのだ。
「値上げの痛み + 支払う痛み」のダブルパンチ。
私見だけど、有料化で怒ってる人が腹を立てているのはたぶんこの辺り。
この例は「無料公開してた作品を途中から有料展開した」場合によく見られる。
一部サイトの「先読みサービス」とかも、読者には有料展開に見えるから、注意ね。
ふたつ目の大事なことは「途中での値段変更は難しい」ということ。
これも、大事。
3:ユーザーはきちんと値段を覚えてる
これまで説明してきたところは、
「なぜ値上げが嫌われるのか?」ってところを考えると理解しやすい。
そもそも、値上げ値下げというのは「以前の値段」あってこそ。
貴方が実生活において、牛丼の値下げに目ざとく気付くこと。
また、ガソリン代の高騰にため息を吐くこと。
これら全てが「以前の値段を記憶している」からこそ、起こりうることだ。
例えば貴方が一作品作っていて、それでマネタイズを考えていたとしよう。
そして貴方は、安易にこう考える。
「始め無料公開で知名度を上げて、後から有料化すれば儲かるぞ」と。
この理論は当たっている部分もあるが、致命的な部分を軽視している。
すなわち、「読者は過去の値段を記憶している」ということ。
無料で公開していた作品の場合、
(作者としてはどうであれ)読者は「この作品は0円の価値だ」と考える。
その認識は、強固な認識だ。
一時期、ハンバーガーが一個60円だったことがあった。
その時期を満喫した人の中には、今でも「ハンバーガー = 60円の価値」な人がいる。
それとおおむね同じように、
「値段降下に比例して、ユーザー内での価値は下がる」のであり、
「一度下がった価値を向上させるのは困難」だ。
この辺りの詳しいところは、第二回に譲るとして。
ここでは「過度な安売りは、それ自体の価値を低減させる」ことだけ覚えておいて欲しい。
で、だ。
ここまで読んできた貴方が気にしているのは、
「じゃあどうすればいいのか?」ということだろう。
一度下がった価値を向上させることは、たしかに困難だ。
しかし、それは(読者・ユーザーにとって)「既知の商品」においての話。
真逆の「未知の商品」――要するに、「これまでとは違う新作」においては、
「既存の価値基準を適用しにくい」のだ。
例えば……少年ジャンプが値上げすると、読者はめざとく気付くだろう。
長年の歴史と、ユーザーに染み付いたイメージがあるからだ。
しかし、集英社が「新しい少年マンガ雑誌」を創刊した時は話が別だ。
ユーザーの誰もが「確固たる値段基準」を知らない。
だからこそ、実質的に値上げが行われていても気づかない。
企業が新しいことする時に、別ブランド作るのはこういうカラクリ。
結構多くの場面で見かけるはずだ。
特にエンタメコンテンツというのは、そういう「比較が難しい」特徴を持ってるからね。
新しい区切りを用意することができれば、ユーザーに受け入れてもらいやすい。
だからこそ、
「新作・新シリーズなど、新しい区切りから値段変更がオススメ」なのだ。
なので、新しいことをする時・大きく値上げするときは、
「ブランドを変える」ことを意識するとよろし、ということ。
Ending:まとめとcredit
- タダ(0円)ほど強力な値段はない
- 途中での値段変更は難しい
- 過度な安売りは作品の価値を低減させる
- 値段変更には、ブランドを変えるべし
重要点を抜き出すと、だいたいこんな感じ。
この第一回、基礎的な部分が中心になったけど、どうだったかなあ?
今の所は、第二回が「有料販売時の値段付け」、
第三回は「個別事例もろもろ」……を予定してるけど、予定は未定。
気になることがあったら僕の[Twitter]辺りで聞いてくれれば、
なんか考えてみます。
僕、実際そこまでマーケ詳しくないって事実だけは勘弁してね。
ではでは、じゃねーっ!
以下credit
この記事を書こうと考えた発奮元ページ
(ちなみに、「無料が正義な時代」の発言元もこの人)
冒頭でも書いたけれど、参考書籍はこれ。
「価格の心理学 なぜ「カフェ」のコーヒーは高いと思わないのか?」
良い本なので興味が(以下略)
画像は、いつもお世話になっているウィキコモンズ先生からお借りしたよ。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Draw_Bag_Money.png
(この画像、風刺画っぽくてかなり好き)