まださなぎ(旧)

誰かさんの蝋の翼。気負わず気楽に書いてくよ。

"楽"書き3-2016/11/29

 楽ちんに、適当に、ほどほどに。

お話をとりあえず書いて置く記事その3。らくがき相当。

 

 

 

 この暗い夜のどこかで、希望の光が残ってるんだろうか。
 この埋もれた街のどこかで、優しい熱が残っているんだろうか。
 私には、まだわからない。

 


 ランタンの火は今にも消えそうで、ちろちろと弱々しく揺れていた。同時に、部屋の隅から暗い影が這い上がろうとしている。もうこれ以上の長居はできそうにない。その端的な事実を、私に伝えようとしているみたいに。
 燃料はもうほとんどない。明日明後日もしのげないほどじゃないけど、きっとすぐに来る冬はしのげない。
 それだったら、ほんとは部屋の外から手に入れなくちゃいけない。の、だけれど。
 私は首をゆっくりと動かして、あまり見たくなかった窓の外に視線を向けた。雲のない空はカラスの羽が敷き詰められたようで、たくさんの星がきれいに輝いていた。
 だけど、地に広がる四角い街には、一つたりとも輝きはなかった。子守唄も奏でずに、都市は静かに眠ってる。ずっと――もうずっと、このままだ。

「チュウイ。ネンリョウ不足、ネンリョウ不足。コンディションイエロー」
「わかってるよ、ハカセ。……私も、わかってるよ」

 そばに転がっていたハカセが、思い出したように声を上げた。今となっては古めかしい機械音声。違和感は今でも拭えないけど、聞いてると少し落ちつく懐かしさがある。

「“機械”がみんな、こんなふうに可愛かったら……よかったのにな」

 そう、私が何気なく呟いた時。ガン! と部屋は大きく揺れて、物という物が小さく跳ねた。
 私はとっさに手元の一つを手繰り寄せると、ぎゅっと右手に握りしめる。お父さんが遺してくれた、ハカセともう一つのもの。少なくとも、頼りないランプよりは頼れるもの。

「ハカセ、なんの揺れ?」

「サーチング……完了。震源地上、三キロ圏内。前震ナシ。受信電波逆解析……完了。推定、ナンラカノ輸送ポッド」
「そっか、ありがと。ハカセ、夜明けまでの時間は?」
「推定、四時間半」

 私はもう一度窓の外を見つめて、小さくうなずいた。まだ夜は続き、“人の時間”は終わらないでいる。これなら、おそらくは。

「ハカセ、すぐに外に出るよ。ちょうど足りなかったところだから……燃料をもらいに行こう」

 言いながらハカセのボディを掴んで、手近なコートのポケットに入れて。コートを羽織って、お父さんの拳銃を裏ポケットに入れて。あとはもう、コートを羽織るだけ。
 最後に私は、そっと部屋へと向き直って。
 ランタン代わりに燃やしていた、機械兵士《マシーナリー・インファントリー》の亡骸に目をやった。真ん中からボディがひしゃげて、コアチップは持ち去られてる。私以外の誰かが壊した、無残な破壊の跡。
 きっとこの機械兵士は、自らが壊した人間と同じくらいに、あっけなく止まったんだろう。同情はしないけど、そこは少しだけ羨ましい。

 「……さよなら。できれば君と同じにならないことを願いたいよ」

 そして、私は部屋を後にした。すでに終わったこの街で、もう少しだけ生きているために。