ぼくのかんがえたさいきょうのWEBマンガ販売法
さあよってらっしゃいみてらっしゃい!
夢見る人は多けれど、夢掴む人の少なきこと。
ならば夢を掴む確率を、少しでも上げる方策はなんだろう?
そんな感じでずっと書いてたマーケティング記事も、これがひとまず集大成。
ではでは、前置きはこれくらい。
早速本題に入ろうか。
1:すぐ真似できる(はずの)WEBマンガ販売案
説明・解説は後。
僕が考えた販売プランはこんな感じだよ。
【仮想販売案】
有料化作品:WEB無料公開/モノクロマンガ
ターゲッティングは「既存ファン向けプレミア品」
ページ数は244ページを想定。(16p×15話+4p)
有料化にあたって、書き下ろしマンガを1〜2話追加。(16p×2話)
※理想としては、全体ページ数の10%前後追加を意識。
販売種類は3種類。
便宜上A,B,Cと記述する。
値段:A300円, B600円, C1250円 (税別)
特典:A,電子書籍+特典α
:B,電子書籍+特典α+特典β
:C,電子書籍+紙媒体書籍+特典α+特典β
特典α:書き下ろし壁紙a, SNSアイコン,設定資料集
※特典αは電子媒体に統一すること
特典β:書き下ろし壁紙b, オリジナルポストカード, オリジナル缶バッチ
※ポストカードは片面カラー。裏地に手書きサイン。
送料:特典ごとに変更
商品A:デジタルオンリー
商品B:封筒郵送
商品C:メール便?
包装・出荷の手間も考える。また、コストと信頼性のバランスも考えること。
※送料で儲けるテクニックもあるが、ここでは使わないこととする。
特典製造費もろもろ
缶バッチ: 一個47円×30個 計1,410円
ポストカード: 一枚約46円×30枚 計1,379円
30以下のロット数は、特に缶バッチにおいて現実的でない。
封筒代を含めても、初期投資は3000円前後で済むだろう。
予約特典:オリジナル図柄しおり
製造費:1枚約17円×100枚 計1,710円 (ロットが増えるほどコスト削減)
商品B,C発売前、自サイトで事前予約を取る。
想定を上回る予約状況ならば、特典品の注文数を増やす。
予想以上にしおりが安いので、注文一つに二枚つけるのも良い。
※特典品三つで総計4,499円が初期製造コスト。
発売後の追加生産では、しおりは製造しない。
紙媒体もろもろ設定
※少し高級感を演出する
サイズ:B6(青年コミック単行本サイズ)
表紙加工:カラー表紙+ラミネート加工
本文カラー:モノクロ
本文用紙:モンテシオン
綴じ方:無線綴じ
遊び紙:つけない
※製本については、完全受注生産前提。
製本費、送料を含めて、販売値段を越えないように気をつけること。
また、もろもろの関係で逆ザヤになってしまう場合は、
製本以外の特典を考えた方が良い。
缶バッチは「ZEAMI Art」の32mmサイズ。
ポストカードは「@グラフィック」の通常ポストカード。
しおりも「@グラフィック」の紙製しおり(小)。
製本は「製本直送.com」。
これら三つのサイトを参考とした。
2:仮想販売案の解説
上に示した仮販売案を、上から順を追って解説していくよ。
2.1:ターゲッティング
初めに「誰に売るか」を明確に決めておくべき。
ここでは最も安定性のある、これらの客層をイメージしている。
- WEBマンガ時代の既存ファン (メインターゲット)
- マンガ好きのコア層(自主的に情報を集める層)
基本的には既存ファンに狙いを絞っており、
後者はあわよくば程度。
元々作品を知っている彼らは元より好感度が高く、価値を理解してもらいやすい。
「電子書籍好き層」は、既存ファンに比べると人口は比較的多め。
だが、狙うのが難しい。
市場拡大するためには狙うべきだが、初めから狙うのは無謀だ。
また、amazonでの定番値付けは「99円」と「250円」。
「安い値段を選択理由とする層」は、始めから切り捨てた方が収益安定に繋がる。
2.2:追加書き下ろし要素について
無料公開していた本編部分は、実質的に「0円の価値」しか持たない。
そのため、有料化の際にはかなりの価値付加が求められる。
- 一冊買えば最後まで読める利便性
- 追加書き下ろし短編
- 壁紙など、電子媒体の特典品
今回は上記を幾つか付属させることによって、
300円の下限値段までの価値付加を狙った。
これでは足りないと感じるなら、コストがかからない品を更に追加。
先に「狙うべきポジション」を決めて、見合う価値を後から付加する。
これは『ポジショニング』と『バンドリング』を活用している。
詳しい説明は下の記事を参照のこと。
創作者さんへの「無料が正義な時代のマネタイズ」第二回 - まださなぎ
2.3:値段付けについて
原則としては「値段付けが安すぎると、価値が低い品だと感じられる」。
最低価格を300円としているのはそのため。
また1200円という高額なバリエーションを用意しているのは、
初めに見た値段が基準となる『アンカリング効果』を期待してのこと。
300.600.1200と三段階の値付けを行っているのは、
人間は「理由がなければ中庸の選択肢を選びたがる」ため。
これは「ゴルディロックス効果」という。
そのため、ここでは主軸商品として商品Bを設定している。
ポストカードと缶バッチを特典としているが、これらの仕入れ値は100円に収まる。
仕入れ・在庫のリスクを含めても、現実的な方向性だろう。
さらなる説明は、以下の記事参照のこと。
(ゴルディロックス効果の記事はまだ書いていない。すまぬ)
値段と価値の関係性について
アンカリング効果・ポジショニングについて
2.4:特典について
今回はポジショニング・値段付け先行で、後から特典品を考えた。
基本、「値段の区別化」と「有料化のための価値付加」を目的としている。
2.4.1:特典α
特典αについては電子媒体のみ。
書き下ろし壁紙a、SNSアイコンは地味な需要があるため。
設定資料集は商品Aの価値付加のため、選択した。
書き下ろし壁紙aについては、作者自身が描くことをオススメ。
ポストカードの図柄・缶バッチの図柄辺りに流用するべし。
電子媒体は「作るコスト」はかかるが、いくら配布しても懐は痛まない。
下限値段の商品価値を上昇させるには、もってこいの一手だ。
2.4.2:特典β
特典βについては、物理特典を付けた。
ポストカードは「作者のサイン」を書き加えるため。
缶バッチは最近のトレンドを鑑みて選択した。
有料化商品を買うほどのファンなら、間違いなく作者のサインは宝物。
ポストカードの白い方に、購入者の名前と一緒に書き加えると良い。
地味に転売対策にもなるので、オススメ。
また、(依頼するツテを持っているなら)
書き下ろし壁紙bは「友人の絵描きさんに描いてもらう」選択肢もある。
別の絵柄による書き下ろし壁紙は、非常に大きな価値と見られるだろう。
ただ(正当な報酬を支払うなら)コストが増大するので、
しっかり売れる見込みがなければ厳しい。
「友情を盾にとって捨て値で描かせる」手段もなくもないが……オススメはしない。
絵描き仲間のマナーとして、焼き肉をおごるくらいはしてあげましょうね。
2.4.3:紙媒体書籍
上にも書いたが、
「逆ザヤ = 販売値段を越える赤字コスト」となるなら製本は危険信号。
特に「製本値段だけで販売値段を越える」ならやめとこう。
一応言っておくけど、上の設定でもギリ黒字〜ギリ赤字レベル。
「製本コスト + 特典品製造コスト + 送料 + 決済手数料」などの総額をしっかり考えること。
あと、よほど売れる自信があるのでなければ、
「一気に製本してコストを下げる」は失敗の元なので絶対にしないこと。
完全受注生産前提で、
- アンカリング用の利益度外視商品
- 素直に値段を上げるプレミア商品
このどちらかに焦点を絞ることがオススメだ。
2.5:特典製造費、また商売モデルについて
製造業の常識として、「生産ロットが多いほど安くなる」。
逆に言えば、「(完全受注型)一個生産は高い」のだ。
全てが全て完全受注生産モデルで、利益をしっかり出すのは難しい。
そのため、今回はこういった収益モデルとした。
- 利益は電子媒体である商品A,Bで出す
- 商品Cは平均値段を引き上げるための商品
- 商品Bを成立させるための特典コストは我慢
- 30個づつ・計3000円の初期投資という現実的なライン
- 最悪ダダ余りしたら親戚とかに配る
一番避けたかったのは、大量の在庫を抱えての破産。
正直言って最悪の未来だ。
リスクといえばリスクになるが、
3000円をドブに捨てる程度なら「誰しもが抱えられる程度のリスク」と判断した。
事前予約もリスク低減策なので、是非是非活用してね。
2.6:事前予約について
受注生産品を販売する場合、先に予約を取ると良い。
予約を取れば、一度に多くのロットを指定できて、
生産ロットを引き上げられればコスト削減につながるためだ。
その上、販売予測・特典品の増産にも便利であり、
最悪「予約が振るわないため計画変更」もできる。
予約特典を付けて、ユーザーに計画的な行動を薦めよう。
2.6.1:事前予約のためのシステム
ネットで探せば幾つかある。
(補足記事に書いた理由も含めて)オススメなのが「BOOTH」や「BASE」。
この二つは「販売開始日を未来に設定」しておくと、予約注文が可能になる。
また、各種手数料も良心的よ。
意地でも自サイトで予約販売を行いたい人は、
「Coubic」やら「RESERVA」とかあるみたいだけど……。
ごめん、軽くググっただけだから何とも言えない。
補足記事というのはこれのこと。
有料化の際の販売モデルと読者心理について。「Money/04」補足記事
2.6.2:予約特典について
ぶっちゃけた話、「低コストの特典」なら何でも良い。
が、あまりにメイン商品とかけ離れた特典はいけない。
ほら、お昼の通販で「メイン商品+まくら+包丁セット」とかって例あるでしょ?
見るからに在庫処分は効果が薄くなる。
今回はメイン商品がマンガ = 本を読む客層なため、
「本を読む際に使える」しおりを選択した。
好評なら幾つかセットにして、グッズ販売の品としよう。
ただし「予約して買った人を愚弄しないため」に、
「安すぎる値段で単品販売する」のは避けること。
3:他媒体での応用のために
ここまで「WEBマンガの有料販売」に方向性を絞ってきたけれど、
もちろん他媒体への応用も利くよ。
応用のための方法論も少し書いておこう。
3.1:特典品の採用基準
例えば特典商法。
これはどんなときも役に立つ。
「売るには物品を作る必要がある」製造業に比べて、
「一度作ればコピーが容易」なエンタメ系では、特にそう。
紹介した例の他にも、いろいろ思いつくよね。
例えば小説ならば、こういった感じ。
- 書き下ろしSS
- 「短編リクエスト権」抽選券(条件は程々に絞ること)
- 「表紙用に発注した絵」を流用しての特典品
ゲームならば、こういった感じかな。
- オリジナル・サウンドトラック(没曲入り)
- ゲームのプロトタイプ時代を紹介するPDFファイル
- そのほか「ゲームのための素材」を流用しての何か
特典品の基本は「既存素材を使いまわせるアイデア」。
そして、「作者には価値が低いけど、ファンにとっては価値が高いもの」。
また、「作品の世界観に合っている特典品」ならなお良い。
和風作品だと、和風の小物だとか。
ファンタジー作品だと、架空の文字をあしらうとか。
でも、「如何に低コストに抑えられるか」が一番大事。
そういう点で缶バッチは、
- どういう作品でもだいたい合う
- ユーザーが好きな用途に使えるので、価値が高めに見られる
- 小さくてかさばらないので、送料が安く済む
- 既存画像を楽に流用できる
- 製造コストがめちゃくちゃ安い
などの全てが揃った超絶有料品なので、非常にオススメ。
3.2:値段付けの基準について
上で「値段付けの理由」は書いたので、
ここでは「具体的な販売値段を決める基準」について。
前提としては、これを守ることとする。
- 三段階の商品バリエーション
- 類似商品の一般的な値段から離れすぎない
- 「何に対して支払うのか」をはっきり示す
各バリエーションが持つ役割はこの通り。
- 商品A 下限となる価格(最低限取りたい価格)
- 商品B 理想的な価格(利益率の最も良い価格)
- 商品C アンカリング用のプレミア価格
この仮想販売案で取った値段は、「300, 600, 1250」。
実質的には「1:2:4」程度の比率だ。
この辺は正直、僕では経験不足の部分。
なので参考書籍にし続けてきた、
「価格の心理学 なぜ、カフェのコーヒーは『高い』と思わないのか?」を頼ることにする。
参考書籍を見ると、二つの戦略が紹介されている。
- 比率1:2:4(あるいはそれ以上の値段)の「アンカリング」
- 比率3:4:6あたりでの「おとり戦略」
そしてそれは、こういった使い分けになるらしい。
【引用】
「価格の心理学」 第九章 おとり戦略 143p
(前略)
顧客が商品の市場価格帯をある程度想定できるときは、ここで説明した「おとり戦略」の方が有効であり、
画期的なサービスや新たに商品市場を確立したいときは、価格設定幅の広いアンカリングが効果的である。
仮想販売案においては、アンカリングを選択した。
電子書籍市場では、混乱めいた価格のばらつきがあり、
また「プレミアム感を演出する計画」が製本という面で存在したからだ。
最後に、これは僕の私見だけど。
「楽しい経験」を売る = 価値基準が曖昧なエンタメ創作物では、
(特典商法も含めて)アンカリングのほうが向いているように思う。
逆に値段帯が固定化しているグッズ販売などにおいては、
おとり戦略の方が向いているだろう。
後は自分の商品に合わせて、臨機応変とすること。
最も大事なものは、商法ではなくて貴方の作品なのだから。
4:その他、商品販売における雑多な問題
先に単離して公開した記事はこの部分。
この記事・仮想販売案が「売るためのシステム」だとするなら、
こちらは「実際に利益を出すための雑務関連」になるだろう。
特にロイヤリティの話はとっても大事な部分。
商品販売を前向きに考えている方は、忘れないようにね。
ending:狙った方向性
基本的にはこの仮想販売案、
「勝つと嬉しく、負けても痛くない博打」を理想としたよ。
初めから「一発逆転の大博打」に打って出るのは、正直無謀。
それを避けるために「考えるべきポイント」を伝えたかった。
今回僕が出した案は、結局のところ一例に過ぎないし。
個別の作品や商品によって変化させるべき部分も多い。
けど、少しばかりは考える足がかりになってくれ……ればいいな。
おおむねそういった気分で書いてた。
まー、欠けてる部分もあるだろうから、
なにか聞きたいことがあったら、お気軽にどうぞ。
それじゃ。
貴方が作る貴方らしい貴方だけの作品、
是非是非売りだしてみてね!
書いた人:リラ/dettalant
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credit
いつもの参考書籍
「価格の心理学 なぜ「カフェ」のコーヒーは高いと思わないのか?」
そりゃあもう大いに参考にしました。
今回使ったアイコンはFLAT ICON DESIGNさんのドル袋。
ドル袋のフラットアイコン素材 | FLAT ICON DESIGN -フラットアイコンデザイン-
記事公開した直後に何気なく見つかるのはひどいよう。
シリーズ『無料が正義な時代のマネタイズ』
第一回/「無料からの値段変更は怖い」
第二回/「値段付けに役立つ理論」
第三回/「広告収益狙いのもろもろ」
第四回/ぼくのかんがえたさいきょうのWEBマンガ販売法
〈つまりこのページ〉
第四回補足/「有料化の際の問題もろもろ」